「あ、じゃあさじゃあさ!それ貸してよ!」
「え?これ?別に良いけど、いらないだろ」
「いいの!ちゃんと返すから!だから!次の大会も必ず勝って無事で帰ってきて」
「大袈裟なんだよ、毎回」
俺が確か家族旅行か何かで買った猫だか熊だかわからない、 ご当地マスコットのキーホルダーを嬉しそうにカバンにしまいながら
気をつけなさいよ、とか
本当凄いよね、とか
口角を上げながらずっと喋ってるコイツを見ると
いつも気恥ずかしさと一緒に根拠の無い自信が湧いてくる。
でかい大会前の俺達のルーティンだ。
「もう良いから、早く行くぞ、、、つっ!!」
もう100回以上は聞いた遠出の注意点と努力への賛辞で耳にタコを作りながら二人で帰りの支度をしていると、ふと強い目眩に襲われて、その場で倒れそうになった。
見慣れた教室の風景がいつもより色濃くなって
二重に歪んだ後、淡くなりまた元に戻る。
強烈な衝撃の中、脳に浮かんだ言葉は
この景色を覚えてる
この瞬間を覚えてる
この人生を覚えてる?
「あれ?俺って、何回目なんだ?」
自分でもわからない言葉が口から出た後、何かいけない事に触れてしまった様な感覚になって、今のはなんでも無い!とすぐさま取り繕った。
いつもうるさいお節介にこんな姿を見せたらそれこそ耳のタコがまた増えると慌てて顔を見ると
その顔は、俺が意味のわからない事を言ったから、と言う驚きと少し違う驚きの色をしていた。
俺の見たことの無い、いや正確には見たことはあるのかもしれないけど
身に覚えの無い表情は一瞬でその姿を消し、いつもの彼女が優しく笑った。
「もう、何おかしな事言ってるの!行くよ!」
見間違いか、勘違いか、ここ最近の疲れと、本番の前の緊張でおかしな幻覚でも見たのか、まあ良いかと何故か簡単に胸に違和感を落とし込んだ。
部活動をしている生徒の声や、委員会で遅くなった生徒の声、それらに呼びかける教師の声、様々な放課後の喧騒に紛れて、彼女のこぼしたSOSは俺の耳元まで届く事は無かった。
「次は私の番なんだから任せてよ、、、あなたに返さなきゃいけない物が、、、沢山あるんだから、、、、」
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Негізгі бет 部屋に変なモノ借りに来る【ルームシェア】
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