□注釈と引用
*1 ジェンダー・トラブル p58
「この意味で、ジェンダーは名詞ではないが、自由に浮遊する一組の属性というのでもない。なぜなら、ジェンダーの実体的効果は、ジェンダーの首尾一貫性を求める規制的な実践によってパフォーマティブに生み出され、強要されるものであるからだ。したがってこれまで受け継がれてきた実体の形而上学の言説の中では、ジェンダーは結局、パフォーマティブなものである。つまり、そういう風に語られたアイデンティティを構築していくものである。この意味で、ジェンダーはつねに「おこなうこと」であるが、しかしその行為は、行為のまえに存在すると考えられる主体によっておこなわれるものではない。」
*2 一般的に、オースティンの分類はパフォーマティブ(行為遂行)的発話とコンスタティブ(事実確認)的発話と表現されます。が「パフォーマティブ」や「コンスタティブ」と表現すると、よりわかりづらくなるかと思い、動画内では「行為遂行的」「事実確認的」という表現を採用しています。
*3 むしろ身体的な行為には言語を超える過剰性があり、
ジェンダー問題に対するアプローチとしてより効果的だとバトラーは考えました。
*4 レズビアンの中でも女性的な振る舞いをする人をFemme、さらにその中でも特別女性的な振る舞いをする人をLipstickと呼称します。
*5 ジェンダー・トラブル p46
「セックスとかジェンダーとかセクシュアリティといった安定化概念によって「アイデンティティ」が保証されるなら、「ひと」という概念が疑問に付されるのは、「首尾一貫しない」「非連続的な」ジェンダーの存在が出現するときである。なぜならそのような存在は、ひとのように見えはしても、ひとが定義されるときの文化的に理解可能なジェンダー規範には合致しないものであるからだ。」
*6 ジェンダー・トラブル p73
「本書は、男の覇権と異性愛権力を支えている自然化され物象化されたジェンダー概念を撹乱し置換する可能性をつうじて思考をすすめ、かなたにユートピア・ヴィジョンをえがく戦略によってではなく、アイデンティティの基盤的な幻想となることでジェンダーを現在の位置にとどめようとする社会構築されたカテゴリーを、まさに流動化させ、撹乱、混乱させ、増殖させることによって、ジェンダー・トラブルを起こしつづけていこうとするものである。」
□参考文献
ジェンダー・トラブル 新装版 ―フェミニズムとアイデンティティの攪乱
amzn.to/3T8XCaw
現代思想 2019年3月臨時増刊号 総特集◎ジュディス・バトラー
amzn.to/3ZyuFHn
ジュディス・バトラー 生と哲学を賭けた闘い
amzn.to/3YBowsB
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動画の書き起こし版
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まず、ここで一度「ジェンダー」の定義について再確認しましょう。
バトラーはジェンダーを記号や解釈の類だと捉えました。
そして、それらが引用・反復されることで
あらゆる性現象が形作られると考えたのです。
バトラーはこの様子を
「ジェンダーは行為遂行的(パフォーマティブ)に作られる」と表現しました *1
「行為遂行的」とは、イギリスの哲学者である
ジョン・ラングショー・オースティンが提唱した概念です。
少しだけこの概念について解説します。
オースティンは発話の種類を
「行為遂行的」なものと「事実確認的」なものに分類しました *2
事実確認的な発話とは、何かしらの事実についての発話であり
その内容についての真偽を判断できるようなものです。
「私は生物学的な男である」という発話は
発言した人物によって真にも偽にもなり得ますね。
そのような種類の発話を「事実確認的発話」と表現します。
一方で行為遂行的な発話とは、
その発話が状況を変化させるような性質を持つものであり
それを真偽で判定することはできません。
「お母さん、あのおもちゃ買って」などの発話は
真にも偽にもなり得ませんが、状況を変える力を持ちます。
「状況を変える」を「成功/失敗が起きうる」
と言い換えた方がわかりやすいかもしれません。
普通に考えたら、ジェンダーにまつわる発話は
事実確認的なものであるように思えます。
「あなたは女だ」とか「あなたは男らしい」とか。
しかしバトラーはそうではないと考えるわけですね。
ジェンダーに関する言説は全て行為遂行的なものであり、
それは真偽ではなく成功/失敗の性質を持つものであると言うのです。
ここには「真偽を問うようなジェンダーなど存在しない」
という主張が暗に表されていますね。
前にも見たとおり、既存の社会における引用・反復によって
現在のジェンダーにまつわるカテゴリーや常識が形作られています。
だから、同じように記号を引用・反復するのは
既存のものを強化するだけであり、逆効果です。
これはフェミニズム第二波に対する強烈な批判だといえるでしょう。
しかしながら、どちらにせよジェンダーという概念は存在し
それが引用と反復によって形作られるのも事実です。
そのためバトラーはジェンダーにまつわる解釈を少しずつ変えていくために
引用元をズラしながら反復する必要性を説いたのです。
そして、その行為は発話だけにとどまらず、
身体的なアクションも含みます *3
この主張を体現しているのがドラァグクイーンというパフォーマンスです。
これは主に男性の同性愛者が用いる性表現であり、
「女性の性」を過剰に演出することにより、「女性のパロディ」を演じ、
ジェンダーにまつわる解釈に疑問を投げかける行為だと解釈できます。
また、レズビアンの中にもさまざまなカテゴリーがあり、
その中でも男性的な振る舞いをするレズビアンをButchと表現し
さらにその中でも特に男性的なものをTomboyと呼称したりします *4
彼ら彼女らの表現は、セックス・ジェンダー・セクシュアリティの
一貫性は幻想であると知らしめる効果、
それにそれぞれが付け替え可能である、という効果を表現します。
まさに男女性というものに対するパロディなのですね。
そして、このパロディには起源がありません。
なぜならば、元となるセックスすらジェンダーによって形作られたものなのであり
それが既に行為遂行的に作られたパロディだからです。
つまり、ドラァグクイーンに類いする行動というのは
パロディのパロディなのであり、
この行為は「セックスを含めた性的なカテゴリーは元々不確かなものである」
という事実を突きつけます *5
行為遂行的な発話や行為は成功/失敗の性質を持つと言いました。
そして身体を用いた表現は言語を超える過剰なものであるため、
その多くは結果的に失敗してしまいます。
しかし、失敗こそにパロディの本質があり、
その引用のずれた行為を反復することで
ジェンダーに対する解釈が少しずつ変わっていくことが期待できるのです。
バトラーは、フェミニズムという主体を作って活動する危険性を指摘し
あくまで失敗前提のパロディを繰り返すことこそ、
「内部」を強化することなくジェンダーの解釈を変えることができる
方法なのではないかという提案をしました *6
そして、その主張は強い影響力を持ち、
フェミニズム第三波におけるインターセクショナリティの浸透などに貢献したのです。
そういう意味で、ジェンダートラブルが出版された1990年ごろから
自身の性にまつわるアイデンティティをカミングアウトする人たちが増え、
それをパフォーマティブに表現する文化が大きくなったのには
相関があると考えられるでしょう。
そして、そのような営みが、現在のわたしたちに「無意識に」刻み込まれている
ジェンダーに対する解釈を変えていることも確かでしょう。
しかしながら、ジェンダーにまつわる問題は未だ山積しています。
今後の社会では、これらがどう扱われるようになるのか。
内部の強化の代表であるナショナリズムに傾きつつある世界において、
外側から私たちに何ができるのか、そしてそれをどう理解すれば良いのか。
バトラーの主張はその助けになる一つの武器だと感じます。
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