館長の美術館ザッピング 64
小泉晋弥館長が、美術館を歩き回って気づいたことを綴ります。
岡倉天心記念室の見どころ②(10月14日まで)
◎菱田春草《林和靖》
林和靖(りんなせい)は、中国北宋時代の文人。都会を離れて名勝・西湖にある小島、孤山に住み、詩作にふけった。梅と鶴を愛し、「梅が妻、鶴が子」であると語っていたという。飼いならされた鶴は、空に放っても旋回して篭に帰ってきたとも、外出している林和靖に訪問客を知らせるために空に放たれたともいわれている。本作での林和靖は、鶴の自由な飛翔を喜んでいるのか、それとも飛来する鶴に来客を知らされたのか。
明治41年(1908)3月、水戸の偕楽園好文亭で「五浦日本美術院小品展」が開かれ、本作が出品されている。この展覧会は、観山、大観らが五浦を離れて留守がちの中、菱田春草の努力によって開催が実現したらしい。
林和靖が佇む岩礁は、湖岸にしては荒々しく、波の荒い太平洋に面した五浦海岸の岩を感じさせる。林和靖の姿と都会を離れて制作に励む春草の境遇とが重ね合わされているようだ。春草は、ありきたりの対角線構図をやめて、下部の岩礁、上部に高山の頂きを配し、中間を広くとって、湖面と鶴が舞う空の広さを強調している。明快な空間構成で朦朧体を脱却しようとしている春草の制作の方向がうかがえる。
細川護立は、若い頃に好文亭の展覧会を訪れ、日本美術院五浦派の作品に共感し、四作家の作品を1点ずつ購入したことを回想している。本作は、その時の購入作品の一つに選ばれた。以後細川が築き上げる大観、春草の名作の一大コレクションの始まりを告げる作品である。
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