館長の美術館ザッピング 68
小泉晋弥館長が、美術館を歩き回って気づいたことを綴ります。
FROM展の見どころ④(9月23日まで)
◎日本画の現代性・その2
裏彩色という技法がある。画絹の裏側に色を塗って、表側から見える色に深みを与える彩色法である。いにしえの画工が絹という半透明の画材に向き合い、画面の両側を意識しながらあみ出した技だと思う。
そのような日本画の技法の繊細なあり方が、武田裕子の《はるのそこ おだやかなこちら》のような作品につながっている。テーマは梅の木だが、正面から描いていない。一点はカーテンが下がっている窓ガラスの向こう側の像、もう一点は池の水面に逆さまに映る像として描いている。梅の木は、ガラスや水面という透明な層を一度通り抜けて、見ている画家の場所の雰囲気とからみあって、画面に取り込まれている。
キュビスムは力業で複数の時空間を絵画にしたが、武田は日本画伝統の季節の情趣に寄り添って自然体で描いている。
川﨑麻央の《韋駄天》は、仏教の天部のひとり。天部とは、もともとは各地で信仰されていた神々が、仏教に帰依して守り神となったとされるグループである。川﨑は、神々や偉人に、ダイナミックな身体の動きを与えて、眼前に生きているように描き出して評価されてきた。同時開催中の「顔展」にも大国主の命と白うさぎの神話を描いた《白兎予祝》が展示されている。
《韋駄天》では、体はそんなに動いていない。かえって見栄を切って固定されたポーズのために、呪術的な朱色が強烈に印象付けられる。動きは白い天衣や衣服だけで十分なのだ。川﨑が足の速い神を描いたのは、今年がオリンピックイヤーだったからかもしれない。
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