『霊界通信 イエスの弟子達』 パウロ回心の前後
G・カミンズ著 山本貞彰訳
26 パウロと大祭司(上)[♯本章は長すぎるため便宜上、上下の二つに分けさせてもらいました。説明欄に文字数制限があるためです。定本では分割されていませんので、あしからずご了承ください]
パウロがダマスコにいる間、エルサレムではクリスチャンに対する迫害が次第に大きくなっていた。大祭司は、まるで牛が溜池の水を飲み干すような勢いで教会をつぶしにかかっていた。牢獄はクリスチャンでいっぱいにふくれあがり、毎日、裁判官は数人ずつ死刑の宣告を言い渡していた。使徒たちは、すでに町の中での布教はできなくなっていた。厳しい監視が始まったからである。このような恐怖が蔓延して教会は圧迫を受け、使徒たちは、もはや脱落した弱い者を助けることができなくなっていた。それで彼らは、ひたすら主に祈り続け、長老や大祭司による迫害によって、信仰が破られ、散りじりにならないようにと強く念じていた。当時、多くのクリスチャンは、クレテ島、キリキヤ地方、あるいは、キプロス島やアンテオケなど、安全な地域へ逃げていたからである。
その頃、大祭司ハナンの耳に、とんでもない情報が飛び込んできた。サウロがダマスコの会堂で、イエス・キリストが神の子であると堂々と布教しているという知らせであった。
この噂がまたたく間にエルサレム中に広がった。中間派の長老たちは、この異端者撲滅運動は、やたらに騒ぎを引き起こすだけでは意味がないと言い出した。この噂はたちまちローマ総督の耳にも入った。総督は大いに心配して、大祭司ハナンに対してキリストの信奉者の取り扱いを誤れば、天罰が下るのではないかと警告した。しかしハナンはそれに耳をかさなかった。
さて、パウロはダマスコの城壁から籠で吊り下げてもらい、商人に変装して旅を続け、エルサレムの商人のところへ行った。町に入った時は、すでに夕方になっていた。彼はまず神殿に入り、一時間ほど祈っていた。彼は最初にメシヤを憎む人々の面前に出て、自分のあやまちを告白しようと決心した。この時間帯には神殿内にはほとんど人影がなく、ひんやりとして、薄暗かった。パウロが熱心に祈っていると、次第に勇気が増してきた。だが、その時、突然一条の光が輝いた。陽光があるはずはないし、神殿内に灯っている火でもなかった。神の臨在を現す炎であった。炎は燃え尽きることを知らず、赤々と周囲を照らしていた。炎の中央から声が響いてきた。
「パウロよ! 直ちにエルサレムからひきあげなさい。会堂に入って布教をしてはならない! ユダヤ人に福音を伝えるためにお前を選んだのではない。おまえは、異邦人のために選ばれたのである。日が暮れないうちに門を通ってこの町から去りなさい。悪者が毒蛇のように路上で待ち伏せしているからだ。重ねて言っておくが、お前は異邦人のために私が選んだものである!」
パウロは心の中で戦った。まだ霊の放った御言葉に従おうとしなかったからである。彼は迫害の先兵として働いたこの町で布教し、自分の大きな過ちを人々に示し、彼らの心をキリストに向けさせようと望んでいた。彼は叫んだ。
「主よ、たった一回だけでも会堂で布教をさせて下さい。そしてダマスコ途上の幻を語らせてください。人々の面前で、自分が卑しかったことを話し、あなたの名を知らせ、信じさせたいのです。どうか今、私を行かせてください」
「だめだ、パウロ! おまえの言葉は平和ではなく、剣となるであろう!」
若い弟子はくりかえし懇願したが声が答えた。
「おまえが今自分の罪を告白したいと言っているが、謙遜な気持ちからではなく、お前の自尊心から出ているのだ。おまえは、そのことを苦難を味わうことによって、もっと良く知るようになるであろう。どうしてもお前が行きたいというのなら行きなさい。そのかわり、決して聖霊の助けなどを願ってはならない」
炎のような一条の光は空中に舞い上がり、神殿の内から消えていった。パウロ一人が残されていた。
彼はそこから十二使徒の所へ行った。使徒たちは誰も彼が悔い改めたことを信じなかった。逆にパウロが、このように自分を低くして罪を懺悔するかのように見せ掛けて、何かをたくらんでいるワナではないかと恐れた。パウロはヤコブの足元に身を投げ出して懇願した。そのときのヤコブは聖霊と共に居なかったので、ことの真相を見破る力が働かず、ただ恐れるばかりであった。その時ペテロはエルサレムにいなかった。ペテロ以外の使徒たちは、もはやエルサレムでパウロの手によって殺される時がやってきたと思った。しかし彼らはそこから逃げようとはしないで、固い団結のもとで、死を選ぶ決意を持っていた。エルサレムは、何と言っても、師なるキリストが死んだ聖なる都であったからである。
パウロは悶々として苦しんでいた。主は夢の中に現れて彼に言った。
「今すぐ大祭司のところへ行きなさい。そうすればそこでお前が何をなすべきか聖霊が指示を与えるであろう。そのことにより、教会を縛っている拘束を緩めることになるであろう。急ぎなさい! その時に我が子ら(クリスチャン)に一つの徴を与えるであろう。即ち、おまえが、異邦人のために私が選んだ器であることを知らせるためである」
それから、パウロは腰の帯をしめ、夜明けごろ大祭司が部屋で一人居るときに訪ねることができた。大祭司ハナンは、パウロがエルサレムにきていることを知らなかったので、彼の姿を見て非常に喜んだ。かつてのパウロは、どの腹心の部下よりも忠実であったので、内心、この若者ならば、きっと総督を説得できるにちがいないと思った。折りも折り、大祭司は総督より迫害の件で心が休まらないとの伝言を受けたばかりであった。
パウロは総督に会見し、自分の過ちを告白してから、長老たちに迫害を止めさせる命令を下す権限を要求した。総督は大いに驚くと同時に、真実を知ることができたことを喜んだ。しかし彼は、サンヒドリンや大祭司がどうでるかが心配であった。そこでパウロに言った。
「ハナンが私の言うことに賛成するならば、やってもよいがね。もし、長老や祭司たちが迫害を続けたいというなら、私はそれを止めることができない。彼らの中にはローマで幅をきかせるものがいるからね」
総督は板挟みになって苦しんでいた。彼は正しい人であったので、ユダヤ人がクリスチャンを迫害しているのは、ねたみによるものと見抜いていたからである。
パウロが大祭司の部屋へ再び入って行った。彼は無言で、平安であれ、との挨拶をパウロに送った。ハナンはダマスコ途上で彼の身の上に何が起こったのかを知ってはいたが、口にしなかった。彼は裁判官に対してクリスチャンを裁判にかけ、どのように教会を潰すかなどの指令を出したことを話した。更に十二使徒は、悪霊の力を利用して魔術を行っているなどと言った。パウロはもう黙っていられなくなり、口早にダマスコ途上で見せられた幻のことをしゃべった。パウロはこの老人を説得してキリストのことを解ってもらえると思っていた。ハナンはパウロに言った。
「おまえは夢を見ているのだ。さもなくば、強烈な太陽の熱にあてられてしまったのだよ。私はそんな幻なんか信じないね。だいいち、モーセの教えに全然合致しないじゃないか」
パウロは一瞬自分の努力が無駄であったかと思った。しかし霊の力が働いて、どうしたらこのずる賢い大祭司に真理を現したらよいかが示された。パウロは大祭司に言った。
「お望みなら、この部屋でダマスコ途上で示された奇跡と全く同じような奇跡をご覧に入れましょう」 大祭司は快く承知した。どうせ彼にそんなことはできないと思っていたからである。
部屋の中は夜明け前で、まだ薄暗かった。彼は大祭司ハナンのために奇跡を現してほしいと心の中で祈っていた。すると、彼らの目の前に不思議な幻が現れた。長く、緑色をしたものが壁のまわりに渦をまいていて、鼻がつぶれそうな悪臭を放ち始めた。よく見ると、二つの真っ赤な目がついていてギラギラ光っていた。ハナンはその正体がサタンと呼ばれている古い蛇であることが解った。蛇は音一つたてないで二人をにらみつけていた。グロテスクな頭が大祭司の方へ近づいていった。恐怖がハナンの全身をとらえ、金縛りにあったように体を動かすことができなくなった。助けを求める叫び声すらたてることができなかった。パウロは言った。
「もしあなたがキリストの弟子たちを解放しなければ、この蛇はあなたを呑み尽してしまうでしょう。蛇の腹の中に横たわり、地獄へ行くことになるでしょう」
再び沈黙が続いた。すべての生き物が死に絶えたと思えるくらいに静けさが続いた。蛇はなおも大祭司の方へ近付いていった。今にも大祭司を呑み込もうとする瞬間姿が消えた。
〝THE SCRIPTS OF CLEOPHAS”
By Geraldine Cummins
First Published February 1928
PSYCHIC PRESS LTD.
London, England
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