『霊界通信 イエスの弟子達』 パウロ回心の前後
G・カミンズ著 山本貞彰訳
26 パウロと大祭司(下)[♯本章は長すぎるため便宜上、上下の二つに分けさせてもらいました。説明欄に文字数制限があるためです。定本では分割されていませんので、あしからずご了承ください]
そして雷鳴が轟き、閃光がきらめき、人間の発するどよめきの声となった。部屋はユラユラと動き、二人の者は顔を被いながら神の助けを求める叫び声を挙げた。
パウロはぶるぶる震えながら口を開いた。もしも大祭司がなおも迫害を続けるならば、たちまち大祭司は死んでしまうと言った。ハナンはペテロのことを思い出していた。ペテロがどのようにアナニヤを死に至らせたか、このずるい祭司は恐れていた。彼はキリストがエジプトで会得した秘密を弟子たちに教えこんだものとばかり信じていた。彼はその力には敵わないと考えていたので、ついに屈服し、総督の所へ行くように命じた。大祭司もついにパウロの要求を受け入れ、クリスチャンに対する迫害を中止し、すべての囚人を解放すると伝えた。総督は早速命令を下し、クリスチャンはすべて牢獄から出て、自分の家に帰るように指示した。
長老の一部は、キリストや信奉者をひどく憎んでいた。司法関係の長老や、神殿に深くかかわる長老たちがそうであった。この人々はクリスチャン解放の報を聞いて驚いた。裁判官たちは大祭司に詳細を聞き出そうとしたが、大祭司はしなびた野菜のように生彩を失い、先刻味わった恐怖におびえて口もろくに聞けない状態であった。それでも、ようやく口を開き、今までのいきさつについて要点だけを語った。長老たちは興奮して、大祭司ハナンを責めたが、ハナンは彼らと議論を交える気力がなく、呆然と座っているのみであった。じっと口を結んだまま、あの恐怖に身を震わせ、ついに下僕の腕の中に倒れてしまった。
ちょうどその時、ダマスコの王アレタスの支配下に置かれていたダマスコの総督から情報が入り、パウロはダマスコから逃げ出したこと、及び彼は極めて悪質なスキャンダルの主人公であったという報告であった。
ダマスコの総督と親戚関係にあったエレアザルがパウロを掴まえようとしたが、彼はすでに身を隠してしまった、とも伝えられた。そこで再び長老たちは相談し、翌日、総督の所へ行って、クリスチャンへの迫害を再開してもらうよう懇願することになった。
翌日になって、長老たちが集まっていると、そこに聖賢ガマリエルが姿を現した。彼は非常に悩んでいることがあった。ローマから、ある情報がひそかにかれのもとに届けられていた。それによると、ローマ皇帝はユダヤ地方をローマ帝国の領土にし、エルサレムの神殿にカイザルの像をうちたて、反ローマ分子のユダヤ人に対し、真の支配者は誰であるかを示したいとのことであった。カイザル(ローマ皇帝の称号)は、ユダヤから税金が非常に少ないことに腹をたてていた。それで頑固なユダヤ人から、皇帝の当然の権利として相当額の税金を取り立てるべきであると考えていた。ガマリエルは、いつユダヤ人に重いくびきがかけられるのかを日ごろから恐れていた。これほど恐ろしい脅しはなかったのである。
長老たちは、ガマリエルに並々ならぬ尊敬を払っていた。ことに彼の先を見る目の鋭さには舌をまいていた。それで彼らはガマリエルの言うことに耳を傾けた。
「ユダヤ人がユダヤ人を迫害してもよいのか! 兄弟同士が争ってもよいのか! これこそわが国民を分裂させる邪悪な行為である。我々はこんなにもひ弱で不健康なのか! それこそローマの恰好な餌食となるであろう。ローマは今互いに助け合い、一つの目的に向かってつき進んでいるのだ。長老、及びユダヤの人々よ、ただちにクリスチャンへの迫害を止めようではないか! そうすれば、我々はもっと強くなり、今きたらんとしている大嵐に立ち向かうことができるのである!」
誰一人声を出すものはいなかった。誰もこの聖賢と争う者はいなかった。
パウロは十二使徒から祝福を受けたかった。使徒たちの所へ行って師なるキリストについて勉強したいと申し出たのであったが、誰一人としてパウロと口をきこうとしなかった。未だにパウロが信じられず、また何かをたくらんでいるのではないかと思っていたからである。やむを得ずパウロは朝早く会堂にでかけて行き、キリストの福音を伝え始めた。彼はダマスコ途上で見た幻のことや、悪霊から救われた体験を語った。そこにはクリスチャンは一人もいなかった。なぜなら、迫害の初期から会堂には、槍や棒を持った監視がいて、キリストのことを話す者はすべて殺されてしまったからである。パウロは大胆にキリストのことを語り、自分のような大罪人でも許しを与えてくれた慈悲について証言した。会堂に集まっていたユダヤ人は、彼を掴まえて引きずり出そうと思ったが、すでに総督からキリストのともがらには手出しをしないように、そして同胞のユダヤ人として自由を認め、法律によって護られていることが宣布されていたので、ただ、傍観しているのみであった。
パウロは演説を終えて会堂から出ていくとギリシア系のユダヤ人たちは彼の後をつけて行った。人気のない所までくると、彼らはパウロに襲い掛かり、棍棒を振り回しながら、もし、おまえが自分は間違っていた、キリストは神の子などではないと宣言しなければ、なぶり殺してやると脅した。パウロは主イエスを拒むようなことはしなかった。それで彼は四十回も棒で体をたたかれたのである。彼は気絶して路上に倒れ、死人のように動かなくなったので、彼らは非常に恐れた。ちょうどそこへ、同じ会堂から出てきてパウロの後をつけてきたバルナバという男は、この光景を見て、パウロの苦悩と主イエスへの信仰に深く感動し、群集が去ってから彼を介抱した。近くの井戸から水を汲んできて、彼の傷口を洗い、近くに住んでいたケパというクリスチャンの家へ連れて行き手当てをした。
パウロの傷は次第に良くなり、手足に力が入るようになったところで、バルナバは十二使徒の居る所へつれて行き、彼がいかに、キリストのために殉教しようとしたかを彼らに話した。(※)ついに十二使徒は、彼を祝福した。
パウロに襲い掛かったギリシア系ユダヤ人たちは、パウロが本当に死んだかどうかを確認するために再び現場に戻ってみると、彼の姿はどこにも見当たらず、パウロはまだ生きていると察知した。それで彼らは、パウロを生きたままでエルサレムからは絶対に出さないと誓い合っていた。
ある晩に、一人の乞食が数人の者と一緒に物乞いをしながら、エルサレムから出ていった。体をカマのようにねじまげていたので、誰もその乞食がパウロであるとは気が付かなかった。彼はカイザリアに行き、そこからタルソへ向かった。
(※)訳者注
十二使徒について
パウロが当時エルサレムで実際に会うことのできた使徒は、ヤコブとペテロの二人だけであった。その他の使徒は、それぞれの役割を果たすために、エルサレムを離れていた。彼らがエルサレムに居ない時には、『十二人制』 という代理の者が使徒の役割を代行し、そのメンバーは百四十四人居たと言われている。百四十四という数字は、ちょうど十二の十二倍である。これは訳者自身の推測であるが、おそらく、十二人の者が一カ月毎に交代していたものと思われる。原書では、(Twelve to sit)と記述されているので、当時の教会制度では、常に十二人の合議制をとっていたものと考えられる。
登場人物
ヨハネ・・・・・・・・・・イエスの最愛の弟子。希にみるすぐれた霊覚者。 ja.wikipedia.org/w/index.php?c...
ヤコブ・・・・・・・・・・ゼベダイの子のヤコブ。ヨハネの弟。 ja.wikipedia.org/w/index.php?c...
ペテロ・・・・・・・・・・精霊を受けた後、別人のようになった。ja.wikipedia.org/w/index.php?...
アンデレ・・・・・・・・・ja.wikipedia.org/w/index.php?c...
ピリポ・・・・・・・・・・使徒フィリポ。ja.wikipedia.org/w/index.php?c...
ナタニエル・・・・・・・・従兄弟ナタンと出会った後、バルトロマイと改名する。ja.wikipedia.org/w/index.php?c...
マタイ・・・・・・・・・・ja.wikipedia.org/w/index.php?c...
トマス・・・・・・・・・・ja.wikipedia.org/w/index.php?c...
アルパヨの息子ヤコブ・・・マリヤ・クローパスの長男、イエスの従兄弟。ja.wikipedia.org/w/index.php?c...
カナン人のシモン・・・・・ユダの友人。 ja.wikipedia.org/w/index.php?c...
タダイ・・・・・・・・・・ja.wikipedia.org/w/index.php?c...
ユダ・・・・・・・・・・・盗賊の首領に残された唯一の実弟、イスカリオテのユダ
マッテヤ・・・・・・・・・ja.wikipedia.org/w/index.php?c...
ピリポ(七人のひとり)・・七人のひとりである伝道者ピリポ。使徒ピリポとは別人。ja.wikipedia.org/w/index.php?c...
ステパノ・・・・・・・・・石打の刑により殉教。ja.wikipedia.org/w/index.php?c...
サウロ(パウロ)・・・・・ガマリエルの元で学んだユダヤ人。後のパウロ。ja.wikipedia.org/w/index.php?c...
ガマリエル(1世)・・・・・パリサイ派の学者ヒレルの孫。民衆から尊敬されていた。 ja.wikipedia.org/w/index.php?c...
アリマタヤのヨセフ・・・・ユダヤの国会議員の一人で、ピラトと親交があり、人目をしのんでイエスに師事していた人物 ja.wikipedia.org/w/index.php?c...
総督(ローマ総督)・・・・当時のユダヤを統治していたポンティウス・ピラトのこと。
サマリヤのシモン・・・・・映画にもなった、シモンマグスのこと。ja.wikipedia.org/w/index.php?c...
アナニヤ・・・・・・・・・サッピラの夫アナニアとサウロの目を治したアナニアは別人。ja.wikipedia.org/w/index.php?c...
アンナス(ハナン)・・・・大祭司。一般にはハナンという名で知られていた。 ja.wikipedia.org/w/index.php?c...
〝THE SCRIPTS OF CLEOPHAS”
By Geraldine Cummins
First Published February 1928
PSYCHIC PRESS LTD.
London, England
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