指物とは、釘を用いず、木の接合部の加工のみで板を組み合わせて作られた家具や雑貨である。江戸指物は17〜19世紀の経済や文化の発展に伴い、武家用から商人用の指物、歌舞伎役者用の楽屋鏡台などの梨園指物として発達した後、庶民にも浸透した。桑や桐といった天然素材の木目を生かすことを特徴とし、金具も最低限のものしか使用しない。過度な装飾を排した意匠は流行に左右されない価値を持ち、生活様式が多様化した現在でも人気が高い。それは、オーダーメイドで腕を磨いてきた技術の賜物である。職人たちは、サイズや用途といった要望に応えながら、江戸指物としての精巧さと面白味を失わない製品を作り上げてきた。湿度の変化による木の反りや劣化を見抜く高度な技術の背景には、目に見えない部分でも手を抜かない心意気、何十年も使い続けてほしいという想いがある。そして、江戸指物は年数を経るごとに味わい深い渋みを帯びる。何十年も大切に使われ続けることで育っていく特別な工芸品である。
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