スピーチライター ・スピーチトレーナーの千葉佳織です。
23日、ゼレンスキー大統領が日本の国会でオンライン形式の演説を行いました。非常に感銘を受けたため、その日本語訳全文を演説しました。下記にこちらのスピーチの分析を掲載します。
日本語訳 参考
www3.nhk.or.jp/news/html/2022...
今回の一連の経緯を通して、言葉の力は世界を変えうると心より信じることができました。私たちは、言葉を通して人々の挑戦の後押しをしております。
●伝える力を得るためのスピーチの学校「GOOD SPEAK」goodspeak.kaeka.jp/
●Twitter
/ kaolly13
※編集により7:00の「誰も予想できなくなっています。」の言葉が一部途切れております。大変申し訳ございません。
▼分析にあたっての私の前提▼
ゼレンスキー大統領の演説に関して、修辞学的な賛美をすると「戦争中なのに『言葉が良い』なんてお花畑だ」「表層的なところに注目をして何も意味がない」といったご意見をおっしゃる方もいますが、私は違う考え方です。彼の言葉の力によって、世界的に支援者を募ることができ、国際社会への影響力を高めていることは事実です。仮に日本がウクライナの立場だったとして彼のように「リーダーたる語り」ができていたかと思うと懐疑的ですから、私はゼレンスキー大統領から、語ることの大切さを学ぶべきだと考えます。
▼ゼレンスキー大統領演説のポイント▼
【感謝や賛辞を重要視した演説】
「《引用》アジアで初めて日本が動いてくれた」「《引用》すぐに動きだしてくれた。」この言葉が強調されていました。日本のメディアでは当初「ゼレンスキー大統領はおそらく日本の歴史的な出来事に絡めて話してくるだろう」と予想していただけに、歴史的な背景の話や、行動誘発がメインではなく「日本の直近の行動」を評価してくれた部分に素直に心動かされた方もいらっしゃるはずです。
【日本を褒める言葉の秀逸さ】
「《引用》日本の皆さん!私たちが力を合わせれば、想像以上に多くのことを成し遂げられます。私は、皆さんのすばらしい発展の歴史を知っています。いかに調和を作りだし、守れるかを。規範に従い、命を大切にしているかを。環境を守れるかを。」〜かを。〜かを。似たような抽象表現を繰り返すことで「日本は良いカルチャーがたくさんある素晴らしい国」と感じさせてくれています。彼は、抽象的な言葉を羅列すると、聴衆が各々その言葉に思いを馳せながら想像してくれるだろうと思ったのでしょう。
【「遠いようで近い」対比表現を冒頭と最後に使用するインパクト】
「《引用》両国の首都は8193キロ離れていて、飛行機では15時間かかりますが、自由を望む気持ち、生きたいという気持ち、それに平和を大切に思う気持ちに距離がないことを、2月24日に実感しました。両国の間には1ミリたりとも距離はなく、私たちの気持ちに隔たりがないことを。」
対比表現は素直に印象に残ります。「遠いけど近い」言葉の響きの記憶を残して、日本のウクライナの印象をより近づけていきたいと考えているはずです。
【「日本はアジアのリーダーだ」A=Bストレートな表現が聴衆を鼓舞】
「《引用》日本はこうした役割を果たすアジアのリーダーです。」ゼレンスキー大統領に認めてもらうことができるのは、日本人の尊厳に影響を与えます。
【日本の人が危機意識を持ちやすい事象と掛け合わせる】
チェルノブイリ原発、サリンを使った攻撃が起きる可能性、残忍な侵略の津波などの比喩含めて、各国同様、歴史と紐づけた話がありました。しかし、アメリカのように直接的に「あなたたちの国で起きたことを思い出してください」とは語りませんでした。これは、歪曲的な表現を好む日本人の感性に確実に響くものでした。
【言葉の描写は想像力を補う】
視覚情報を明確に描写する演説は、聞き手の想像力を助け、結果的に伝わりやすくなります。「《引用》壊れた家の庭先や道路脇など、どこでも可能なところに葬るしかありません。」「《引用》多くの人が生命の危険から逃れているため、ウクライナの北部、東部、それに南部から人がいなくなっています。」
【ビジョンや未来は何度も語りかける】
「《引用》皆さん!ウクライナとそのパートナーの国々、そして私たちの反戦の連帯こそが、世界の安全を崩壊させず、国家の自由、人々、社会の多様性、それに国境の安全確保のための土台を保障するのです。それは私たちと子どもたち、それに孫たちの平和を守るためです。」ビジョン・思い・価値観に人は心惹かれます。ひとつひとつの言葉を明確に記憶してもらうというよりは、奮い立たせられる感覚になることが重要です。日本人の使用頻度が低い表現手法です。
【「問いかけと否定」方法「〜でしょうか?〜ではありません。」】
問いかけのあと否定を重ねます。ただ否定するよりも強い効力を持ちます。「《引用》国際機関が機能しなかったことを目の当たりにしたと思います。国連や安全保障理事会でさえも…。いったい何ができるのでしょうか。」「《引用》既存の安全保障体制を基盤にして、それはできるのでしょうか。この戦争を見れば、絶対にできません。」
【「感覚的なものをも話す率直さ」ゆえに響く】
「《引用》皆さんもこの気持ちは分かると思いますが、人々は子ども時代に過ごしたふるさとに、住み慣れた故郷に戻らないといけないのです。」通常の正式な演説では感覚的な事象を話すことは少ないのです。しかし、論理とは関係がない「人間として当然こう感じるものなんだ」と語る彼からは本物の愛情を感じます。
【主張を明確にすること】
「《引用》ウクライナのため、世界のため、私からのお願いです。世界が再び、平和で安定した明日が訪れ、次世代の将来に自信を持てるようにしてください。」
これは本来、一文で言うことも可能な文章です。「(ダメな例)ウクライナのために次世代に自信を持てる社会にしてほしいと私は願っています。」これでは、どこが強調部分にあたるのか理解しにくくなります。「私からお願いです。」と一文を切り、言葉を紡いでいくことで後者の内容が強調されます。
【「これは本当のことです」という念押し】
「《引用》これらはウクライナ人も大好きな、皆さんの文化に根付いています。これは本当のことです。」
ゼレンスキー大統領は世界から「国ごとに響く言葉を用意しているんだ」と言われていることに気が付いているはずです。ですので「本当のことだ」「本音で話しているんだ」こんな表現を意図的に入れることで「ポジショントークではなく心底語ってくれているんだ」と、私たちはぐっと心惹きつけられるのです。
【妻の話、日常の描写による説得力】
大それたことよりも、日常の一描写が説得力がある場合もあります。日常に浸透している証拠になるためです。「《引用》ほんの一例ですが、2019年、私が大統領に就任して半年がたったころ、妻のオレナが目の不自由な子どものためにオーディオブックを作るプロジェクトに参加しました。このとき彼女がウクライナ語で音声を吹き込んだのが、日本のおとぎ話だったのです。私たちにとって、そして子どもたちにとって、共感できる内容だったからです。」
【「今」このタイミングで共有できる意味】
「私たち全員にとって、極めて重要な時期なのです。」ゼレンスキー大統領は他国の演説においても、「今この瞬間私は何を感じ、あなたと何を共有したい」を言語化します。彼がオンラインのリモート演説を求める理由もよくわかります。言葉はその時、その時間、人と人が話を聴き合っていることにより大きな力を持つのです。
弊社は「すべての人にスポットライト」を掲げています。言葉の力で自分の人生を変化させることができる。スピーチライティング・トレーニング事業を行なっています。少しでもご興味をお持ちいただければ、ぜひお気軽にお問い合わせください。
Негізгі бет 【日本語訳演説】ゼレンスキー大統領 国会での演説(話者:スピーチライター千葉佳織)
Пікірлер: 10