東北福祉大学吹奏楽部委嘱シリーズ第1作
■ 「散歩、日傘をさす女性」― クロード・モネに寄せて/八木澤教司
■ La Promenade, la femme a l’ombrelle― An Artwork of Claude Monet / Satoshi YAGISAWA
クロード・モネ(Claude Monet 1840-1926)は言うまでもなく、フランス印象派を代表する画家の一人である。自然の中で輝く外光の美しさに魅入られ、その探求と表現の趣向に生涯を捧げた巨匠として、美術史に名を刻んだ。混合させない絵具での色彩分割(細く小さな筆勢によって絵具本来の質感を生かした描写技法)によって、自然界の光と大気との密接な関係性や、水面に反射する光の推移、気候・天候・時間など外的条件によって様々に変化してゆく自然的要素を巧みに表現した作品が特徴である。国立新美術館で2007年春に開催されていた大回廊展「モネ」を訪れ、多くの作品に直接触れ、私は深く感銘を受けた。今回この楽曲の題材に選んだのはモネの「散歩、日傘をさす女性」(1875)。
モネは写真でも撮るように見上げた角度でその様子を見事に描写している。この作品はモネが幸せの絶頂期に描かれたものだ。それまでのモネは長い貧乏生活が続き、その貧困がゆえに自殺までも試みるほどであった。父親からの援助も打切られ、1867年には家族に認められぬまま息子ジャンが生まれている。そんなモネを心から支えたのがカミーユであったが、生活苦から三人目の子供を堕胎。彼女の身体は日に日に衰弱し、「散歩、日傘をさす女性」が書かれた4年後(1879年)に亡くなってしまう。ようやく手に入れた幸せは長くは続かなかったのだ。そして、カミーユの死をきっかけに、モネの絵から人の姿は消えた…。
「散歩、日傘をさす女性」を改めて見るとカミーユの表情がとても微妙に感じられる。柔らかいヴェールが顔を隠す形になっているためか、彼女が不思議と悲しげに見える。カミーユはこの幸せが長く続かないことを予期していたのではないか。そして、それをモネは知らずのうちに感じとっていたのではないか。私はこう思えてならない。1886年、再婚者の娘であるジュザンヌをモデルに、決して書こうとはしなかった人物画を再び手がけることになる。この「戸外の人物―習作」はかつて描いた「散歩、日傘をさす女性」と同じ構図であるが、決定的に違う点がある。モデルの顔が描かれていないのだ。
様々な見解があるが、私はカミーユへの想いがそれほど深く、愛が永遠に続いているからだと感じている。この絵を最後にモネは人物画を封印したのもそんな理由ではないか。この楽曲は「散歩、日傘をさす女性」をテーマに、11年後の「戸外の人物―習作」を書いたモネの心情を、学問としての見解ではなく、私の感じた率直な気持ちで観察し音にしたものである。最後に現れるコラールは別のモデルで絵を書きながらも、モネがカミーユと精神的な再会を果たす場面を想定している。フレーズの途切れないコラールには、会いたくても会えない、話したくても話せない、8年間の伝えたい絶間のない気持ちを反映させている。「散歩、日傘をさす女性」が書かれたのは私が生まれるちょうど100年前。何かと縁を感じさせるものがあり、誠意を持って制作にあたった。
出版…ウインドアート出版
Wind Art Publishing
info@wind-art.com
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#吹奏楽 #八木澤教司 #SatoshiYAGISAWA
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