「、、、、、
オヤジぃ、
これ、
︻
無、じゃなくて、
︼
︻
そもそも、フ、不じゃねぇの?
︼
ふ。」
道路正面
我が家の
入り口
[野島整体]
木彫りの
表札のすぐ下
突如、貼られた
ラミネート 1枚
ーーーーー
| |
| は 無 |
| じ 変 |
| め 哲 |
| ま |
| し |
| た |
| |
ーーーーー
「ただいまー
これ、
冷やし中華じゃねぇーんだからよぅー」
庭の奥
木の手入れをするオヤジの背中に向かって
学校帰り、声をかける
「おー、おかえりー
︻
いーんだよ、無でー
︼
分かりたい人が
分かればいいんだから」
作業の手を休め、軍手をはずしながらこちらに向かって来る
俺のオヤジは自宅敷地内の一角にあった物置小屋を改造して整体院を営んでいる
昔、地元じゃそこそこ名が売れた元プロレスラーで、若い頃のヒーローは前田日明氏だったとか
俺が小さい頃は
なんちゃってスープレックスを
なんども掛けてもらったっけな
近頃、
棚橋弘至選手がミドルエイジの女性を対象に
『その悩み、大胸筋で受けとめる』って本を出版していたのに刺激され、
整体にやってくるお客さん相手に相談を受けていたら、
あれよあれよと口コミで火がついて冗談半分にそれ専用のインスタを開設
そして
そこで
質問に答えたり
ライブしていたら、
フォロワー数が
あれよあれよと
桁違いになり
調子こいて
インスタ閉じて
勘違いして、
無変哲教をはじめてしまった
オヤジはやることが突拍子もないんだ
いっつもそう
妹と俺はそれに振り回される
「で、なんなの、無変哲って」
「わかんねーのか
書いて字の如く、変哲ねぇってことだよ
ちっとは物事考えてから人に聞けや」
「で?
で、
だから、何って話だよ」
「手っ取り早く言えば、変哲ない、ふつうがいっちゃん大事かも、なぁ、って話だよ」
「なんだよ、かも。って
自信ねーのかよ」
「自信なんてねーよ
オレからしたら自信満々のヤツの方が信じらんねぇよ
なんの根拠だってんだ
やたら盲目的に信じるからやたら裏切られたっても、なるんだよ
昔、オレもそうだった
自分を微塵も疑わず他人を丸のみにしてルンルンしながらスキップしてバナナの皮でスベるみたいにズッこけてピーピー後から『信じてたのにぃ』って、泣くんだ
そりゃそうだ、
丸々自分勝手な幻想なんだから
変に生半可な自信なんて逆にないほーがいいからな
自信より初心だ 初心」
「ふぅん、」
「変哲さえ無いこと
が
想像できたら
当たり前なことなんて
なにひとつないだろ?
ある意味全部特別だよな
まっ、
考え方のことで
わかりやすく言えばー
ほら、
あれに近い、
八百万の神とか言うだろ、日本の古いやつ
なんにでも神様がいるってゆー
あれ、
あれもそう、なんだ、
アニ?マニ?」
「アニミズム?」
「そうそう、まニミズム」
「ア」
「アみニズム」
「、、、、、
、、が、どうしたの?」
「それ似、なんだよ
神様を目の前の
そのまんなかに想うとき
その人のまんなかに
神様がすでにいるだろ
でも、
外のひとつの神様絶対とか
外のたくさんの神様達とか
そーゆーんじゃない
信じる信じないとかじゃない
ことごとく、そうであること
そうであったこと
そうなってゆくこと
たとえば
木が意志をもち
育つように
なんかこー
不変哲で無変哲な、こー
よーするに
内がわの話だよ
変わる、と、変わらない、の、
こー
はざま
って、
ゆーか、
こー
混合ダブルスって、
ゆーか、
ハイブリッドって
ゆーか、
こー」
「もーいいよ
結局
はっきりわかってないじゃんかよ、オヤジ
そんなんで貼り紙なんかしていいのかよ」
「なぜ悪い
無変哲エステ。とか、嘘はついてないぞ
痩せます。とか、一切書いてないぞ」
「いや、ふざけんなよ
ふつーにダメだろ、そんなん
しかも
はっきりわかってもないくせに」
「なぜだ
なぜ悪い」
「ふつーに考えろよ」
「普通ってなんだ」
「めんどくせーなぁ」
「お前とオレの普通は違う
それが普通なのが普通だぞ
本来の普通と不本来な普通があるぞ
社会的な普通なんぞ、コロリと変わるからな
それに
この但し書きは遊び心だ」
「もー、いーよ、わけわかんなくなってきたよ」
「だよな
でも、
でもな、
父さんがやりたいのは
たったひとつなんだ
まず、
その人の話を聞くこと
と言っても
問題それ自体を掘り下げても辛くなる
身体もそうだがな、
実は
問題は問題としているところにはないのが大半だ
その周辺の、他愛なさこそが、大事なんだ
少しづつでも話をしてゆけば自ずと背景が滲んで浮かび上がるから、それをお互いなるべくリラックスして色んな角度で時を重ねながら答えを早急に求めずなるべくコダワリをほぐしながら眺めていくことだ
かつて
アメリカに
ミルトン·エリクソンという方がいてな
オレはその方の映画を観てな
とても深い感銘を受けたんだ
彼は変哲ない雑談こそを大事にされていて
たくさんの人の人生のよりよきキッカケになった人だ
『人は指紋のように違う』
そのことを深いところで受けとめ、よりよきに繋がる術を自身の人生から学びとり、後世に遺そうとされていた方だったんだよ」
「ふぅん」
「まー、
それはそうと
たしかに
お前が言う通り
無と変と哲って字面音感、
ボン、キュッ、ボン、みたいで
インパクトありすぎるか」
「言ってねーし
そーゆーことじゃない」
「まぁ、まぁ、
そんな固いこと言わないで
気にしない 気にしない
むしろ、
変に急に人気出ちゃったから逆にここらでダメなのもオツなもんさ
あまりに不評なら外してもいいんだ
本業じゃないし、な
なぁに、
魔除け的なもんさ
要は質だ
自分が誠意をもってやって、切れる縁は切れていい縁だ
それより、
まずは、
やりたいようにやってみる
誰にも文句言われない自分のフィールドだから、な
ほら、
もー晩飯の時間じゃんか
水餃子食べようぜ
米、切らしちゃったからな」
「えー、また、あの、ダンボの耳みてーな、デカいだけの肉が少ない水餃子?」
「肉が少ない、いうな
お野菜たっぷりバージョンと言え」
家のなかに入ろうとするオヤジの背中の後ろをついて行く
玄関横
以前、母さんが5月の俺の誕生日に植えた1本の花水木
今年も花が咲いてる
その根もとの
ふたつの犬小屋
今日も変わらず
雑種のサン太とアイ
それぞれのシッポを
これでもかと
振りながら
俺たちを
楽しげに
迎えてくれていた
後でエサあげなきゃ
最近
学校に行っていない妹は
リビングで
ドリルをしている
ホントは
みんなで
水餃子より
コンビニ行きたいけど
お小遣い切れた
アルバイトしよ
もう少しで
いつもの
3人での
夕飯
この景色も
変わりゆくんだろう
みてるおれのいしきはこのままで
#短編小説#棚橋弘至#ミルトンエリクソン
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