梓弓―別れの譜 ―メゾソプラノ、テノール、箏、十七絃、尺八のために―
原作:伊勢物語、原テキスト:和合亮一、翻案テキスト・曲:新実徳英
歌:青山恵子、歌:布施雅也、箏:帯名久仁子、十七絃:平田紀子、尺八:田辺頌山
日本歌曲協会主催( www.nikakyou.org )
<第16回邦楽器とともに・誕生100年!十七絃の響きにのせてⅢ>より(動画⑦)
2021.10.28(木)東京文化会館・小ホール
映像制作 公益財団法人日本伝統文化振興財団
【解説】
2019年に『伊勢物語』による合唱劇〈二つの愛の物語ーあずさ弓・筒井づつ〉を樹の会の委嘱により発表した。
今回はその前半部〈あずさ弓〉のテキストをソリスト二人の版に作り直し、新たに作曲を試みることになった。この別れの物語に多分の「心残り」があったし、合唱劇とは別の可能性を探ってみたくもあった。
テノールは(語り)と(夫)の二役、メゾソプラノは夫の帰りを待ちわびる(妻)の役、合唱劇でのコロスの役割を箏、十七絃のお二人に、各々演じていただくことになった。
邦楽器の二種の音色、奏者の方々の地声、そしてベルカントの男声女声、それらの「色」が様々な対比と融合を生み出し、この編成ならではの「立体」が生まれることになったように思われる。
この度の初演に関わって下さった全ての方々に、この場をお借りして心より謝意を表するものです。
【テキスト】
<S・1>
MS あらたまの年の三年
それは一握の砂
待てども待てども
ない ない ない
愛しい姿がない
便りもない ない ない
待つことに疲れて
疲れてしまった
T(語り) 一千の月は沈み
一千と一日の月も沈み
天つ風
雲の通い路見上げては
愛しい天の姿を探す
探す 探す
<S・2>
MS かなたでは 雲は散り T(語り)
かなたでは 霧は消え かなたでは
指の間から
雲が砂のように
こぼれ 落ちて 落ちて
さびしさがだけが
私の手の中に
残ったまま
だから誰かと T(語り)
こぼれ落ちる前に 誰かと
誰かと 手をつなぐ
手をつなぐことにしたのです
新しい夫と(新しい男と)
あなたのこと 愛しい 愛しい
《間奏》転ズル
<S・3>
夫と
MS 今宵 新しい男と
わたしは越える
なにを
夜を
月はもう沈まない
わたしは
別の夫の手を握り
新しい月の
満ち欠けを
あおぐ あおぐ あおぐ
箏・十七弦 あおぐ あおぐ
泣きながら 月をあおぐ
月影ぬれし さねかずら
T(語り)ふりさき 見れば
天の原
ふるさとの山
出でし 月かも
<S・4>
T(夫)月影ほのか
私の家だ
愛しい妻よ
わたしだ わたしだ
この戸を開けよ
ぬばたまの夜半の闇を
闇を越えて
箏・十七弦 闇を越えて
この戸を開けよ
愛しい妻よ
この戸を開けよ
T(夫)みつとせの
ぬばたまの
夜半の谷を
谷を越えて
この戸を開けよ 開けよ
<S・5>
MS なぜ なぜ なぜ
あなたは なぜ
この夜に
新しい夫と結ばれる
この夜に
新しい枕を交わす
この夜に
T(夫)戸を開けよ
開けておくれ
わたしの愛しい人よ
戸を開けよ
開けておくれ
MS お帰りください
愛しい人よ
わたしには
新しい夫の手が
今宵からあるのです
三年もの
冷たい砂の暦を
ただ忘れたいから
新しい夫を
迎えることに したのです
月はもう沈まないのです
T(夫)一滴の天の しずくよ
あなたと わたしの
逢瀬の月ではなかったのか
<S・6>
T(夫)わたしの心の弓は変わらずに
ずっとずっと引かれていたのに
目の前の年月の木戸は
冷たく閉ざされているばかり
ひらかない あづさ弓
ひらかない ま弓
《間奏》
<S・7>
T(夫)どうか どうか
わたしがあなたを
ずっと愛したように
新しい人と弓を引きあって
なかよく しあわせに
さよなら さよなら
どうか しあわせに
箏・十七弦 男ハヤ行キナントス
夜半ノ月ヲ引キ戻ラントス
切ナキ月ノ影
切ナキサネカズラノ影
男ハヤ帰リケリ
ヌバタマノ闇ハ
口ヲ開ケテ
愛シキ人ヲ飲ミ込ミケリ
MS またれよ またれよ
まって まって まって
待たれよ
あづさ弓 引けど引かねど
わたしはずっと心の弓を
待たれよ どこへ
愛しい人(よ)
どこへ行った
愛しい人よ
箏・十七弦 ヌバタマノ 闇ハ
どこへ 奥深ク
モハヤ 女ハ
男恋シク身ヲ焦ガシ
愛しい人よ 悔ヤミシ心ニ燃エサカリ
アタカモ 闇ノ
炎 ナリケリ
わたしの心は
わたしの体は
わたしの命は
あなたのもの
あなたのもの
<S・8>
T(語り)女ハ力尽キテ倒レ
目ノ前ノ岩ニテ
指先ノ血デ書キ記ス
MS(アリア)(ひざまづいて)
相思ひて離れぬる人を留めがね
わが身は 今ぞ消え果てぬる
苦しい
切ない
寂しい
悲しい
悔しい
恋しい
切ない
寂しい
T(語り)
女死ス
わたしを隠せ 月ノ光ノ中ニ
かなたの雲に ヤガテ
月ハ雲ニ隠
苦しい 女モマタ ヌバタマノ闇ニ
切ない 闇ニ 飲マレユク
闇の中ニ 闇ノ 闇・・
(女 倒れる)
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