日頃は物分かりのいい大旦那の 唯一の欠点は誰かれなく下手な義太夫を無理矢理聴かせること 師匠に就いて義太夫を勉強しているが あまりの下手さに身内の親戚 縁者からは敬遠されてしまい ならばと貸家や店子連中に声をかけるも誰一人やって来ず 機嫌を損ねた旦那は「来ない貸家 店子連中は全員出て行け 雇い人にも暇を出す」とかんかん 一人奥の部屋へ引き籠ってしまう
これは一大事と 急いで番頭が貸家 店子連中に二度目の知らせに走ると 皆ようやく事の重大さに気付いたようで 其々に言い訳やら 詫びを並べて大旦那の元へ やがて機嫌も収まり じゃあこれからみっちり語るよ と当人は意気揚々 急いで酒 料理の支度に取り掛かったが 頼んでおいた裃がまだ出来上がってこない 仕方がない「今日は御簾内で語るよ」と大旦那
御簾一枚でも有難い 下手な義太夫から遠ざかるのは勿怪の幸いと 来訪者は皆 料理や酒を酌み交わし やがてお腹も満腹になり うつらうつらと目の皮も弛んできて 其々ごろんと横になって寝てしまう しばらくしてその静けさに気付いた大旦那が 御簾の端を持ち上げてその様に驚く 何と全員が寝ているではないか あろうことか番頭までもが・・・
「おい番頭 接待係のお前が先に寝るやつがあるか」「家は宿屋じゃない さあみんなも帰っておくれ 義太夫はお終いだ」とかんかん しかし中で一人泣いている者が それは丁稚の定吉だった それを見た大旦那「番頭さん よくご覧なさい こんな子供でさえも私の義太夫を聴いて泣いているんだ」と感心 「で何が悲しかった? どこの場面だ?」と優しく声を掛けてみるも どれも違うと言う 「じゃ一体 どこが悲しかったんだ?」と詰め寄ると ようやく定吉が口を開いて それは??? ・・・ でございますと
出演 三遊亭 圓生(6代目)1900年~1979年死去
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司会 山本 文郎 1934年~2014年死去
解説 榎本 滋民 1930年~2003年死去
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この噺の中で 一番大変なのは番頭さんです 大旦那と貸家 店子連中の間に入ってどちらの話も相応に聞いてトラブルにならないように気を配る でもどこか間が抜けていて大旦那から気配りが足りないと怒られる いつの時代でも中間管理職というのは大変なんだなと
若手の落語家は この大旦那と番頭とのやりとり「○○屋はどうした?」「はい ○○の用事が出来て来られません」「じゃあ○○は?」といったところを スピーディーに早口で聴かせてくれますが 圓生はこのパートを数人の貸家に留めています
どちらがよいかは別問題として あまりやり過ぎるとそっちのほうに焦点が移ってしまい 落語が早口弁論大会のようになってしまうので 圓生としてはあえて噺のテーマは大旦那と番頭として そしてこの二人を取り巻く貸家 店子も含めたストーリーをつくりたかったのではないでしょうか
【大旦那と番頭】の見どころ
08:34 貸家 店子連中を前にして番頭 「それがねえ 誰か聴きゃよかったんだよ 二、三人でもねえ 誰しも命が欲しいから」と貸家 店子のみなさんも大変だけど 間に入って大旦那のご機嫌伺いしなきゃならない私の立場も分かって・・・ とでも言いたそう
11:00 「何もまずい義太夫を我慢をして聴いて頂くにも及ばない・・・皆さんをお断りしな」と大旦那 「では左様を持ちまして」とただの伝達役のような番頭の態度に「おいおいおい ちょっと待ちなさい」と引き止め 立ち上がり移動して行く番頭の様子を 大旦那の目線の動きや表情で伝えてくれます ここは一見の価値あり さすが名人 圓生ならでは
32:38 大旦那が「師匠ご覧なさい 一人も起きているやつがないなんて」とぼやき 番頭まで寝ていたので起こすと 眠たそうに目をこすって「上手い 日本一」という掛け声「番頭 義太夫はお終いだ」と怒鳴られても それでも「ああ面白い」とまだ夢の中 「皆さんが眠くなったらお茶でも差し替えるのがお前の役目じゃないか それが一番先に寝るやつがあるか」との返しに「一番後に寝ました」と事もなげに これらシーンの緊張感を和らげるいい緩衝材になっている番頭 このひょうひょうとした演技ができるのも圓生ならでは
【宝丹】ほうたん
江戸末期に売り出された 赤褐色の湿潤性粉末の気つけ薬
【店立】たなだて
借家から追い出すこと
【舞舞螺】まいまいつぶろ
かたつむりの別称
【博士】はかせ
江戸時代 寛政(1789~1801)期に幕府の学問所である昌平黌(しょうへいこう)の教官を務めた3人の朱子学者を「寛政の三博士(かんせいのさんはかせ)」と呼んだ
《編集後記》
落語マニアの間では「圓生は 60歳過ぎてから 落語が上手くなった」とよく言われますが この動画もその一つ これ以前のモノクロ動画や CD版の 60歳以前の圓生には 話にキレがあったものの 聴いていてちょっと鼻につくといいますか 刺々しいイメージがありましたが それがすっかりとれて さらに円熟味を増して 正に名人の名にふさわしい噺家になられました
何故この歳になって? と思いますが 歳を取ってちょっと痩せたのでしょうか 顔の皺も増えて 眼の玉も時に大きく見開いて 時々ぎょろっと光ったり 上瞼を動かして目線を上下に動かしたり 口元も緩んだり きりっと締まったり 解説の榎本氏が指摘していますがいわゆる『眼技』の素晴らしさには驚きと感動すら覚えます こういった細かな表情変化は他の落語家がやろうと思ってもとても真似できません これが圓生落語 人間国宝級でしょうね
この「寝床」は 圓生自身が幼い頃からプロの義太夫語りとして舞台に出ていたという経験がそのまま活かされています よって「寝床」は圓生のためにある噺と言ってもよいのでは 枕のパートに かつての義太夫語りの一端がちょこっと窺えます この辺が他の落語家と一線を画しているところ 唯一無比 圓生ならではの『寝床』ということになります
あっ気に障った方には御免なさい 圓生が好きなものですから 但し60歳以降の圓生という条件付きですが 何かちょっと面倒臭いですねその辺が すいません
※ それから最後に 字幕は当方の聞き写しなので誤記 聞き違い等あるかもしれません 前以ってご了承願います
Негізгі бет Музыка 【字幕・解説付き】落語『寝床』(六代目 三遊亭圓生)
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