帰るところー歌、箏、尺八のためのー
日本歌曲協会主催( www.nikakyou.org )
<邦楽器とともにーアンサンブルの多様性を求めてー 春のステージ2023>より(動画⑦)
2023.4.28(金)渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール
映像制作 公益財団法人日本伝統文化振興財団
詩:宮本苑生
曲:田丸彩和子
歌 (Ms):山田美保子
箏:丸田美紀
尺八:坂田梁山
【解説】
昔々あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。こんな始まり方が相応しい物語です。
今までごく普通に暮らしてきたおじいさんは、ある時本来の自分(鳥)に戻りたいと言う。それを聞いたおばあさんの悲しみに焦点を当てて、話は展開します。二人の生活感覚の違い、愛のあり方の違い。やがて魚になるため海に向かうおばあさんに、もう迷いはありません。一見気ままに、鳥になって行ってしまったおじいさんは、無事に山に帰ることができたでしょうか?
今回、作曲家田丸彩和子さんのご要望を受けて書き足した会話部分で、おばあさんの葛藤がどのような盛り上がりを見せるか、期待しております。(詩 宮本苑生)
詩の解釈について宮本さんと何度もメールでやり取りする度に、詩への理解が深まりました。詩の深い内容を音楽で表現する作業は、難しいと同時にやりがいがありました。
「歌を作る上でおばあさんが感情を吐露する言葉が欲しい」という私の要望を快諾してくださった宮本さんに感謝いたします。 (曲 田丸彩和子)
【詩】
帰るところ
―歌、筝、尺八のための―
宮本 苑生
「ああ 里の暮らしに疲れたな そろそろ山に戻りたい
おまえも海に帰ったらいい」
「帰ると言ってもここが私たちの家じゃありませんか」
おばあさんは驚いて言いました
「昔の自分にもどるんだよ わしは鳥にな」
「私は海に帰って何になればいいのですか?」
「早い方がいい 明日の朝早くに戻るとするか」
なにがなんだか分からないまま
おばあさんは一晩中泣いていましたが
朝になると最後の食事を作りました
「ごはんができましたよ」
「おまえだけお食べ」
その声が妙に甲高いのです
手をぱたぱたさせて
しきりに飛び立とうとしています
あきらめて戸を開けてあげると
うれしそうに羽ばたいていってしまいました
おばあさんはしばらく見送っていましたが
一人で最後の食事を取りました
涙が止まらず 食べながら声をあげて泣きました
しおからい水が何度も口の中に入ってくると
「私は 本当は魚だったのかも知れない」
と思うようになりました
その時 こつこつ と戸を叩いて
おじいさんが戻ってきました
「なんだか飛ぶのが苦しいのだよ
ちゃんと鳥になっているかい?」
「ええ ええ それは立派な鳥ですよ」
もう一度見送ってから 仕度をしました
二間きりのそまつな家ですから
何もやり残した事はありません
空の一筋の白い流れに沿って歩いて行きます
「かみさま いつでも魚にしてください」
もう振り向くことはありませんでした
詩集「へんしん」より
※作曲にあたり、作詩の宮本さんと相談の上、上に掲載されている原作の数か所に、以下のおばあさんの言葉を追加しました。(作曲・田丸彩和子)
「おじいさん どうして急にそんなことを言い出したのですか?
私との生活に飽きたのですか?
おじいさん おじいさん 返事をしてください」
「おじいさん そんなに山に帰りたいのですか?」
「ああ 行ってしまった」
「ああ おじいさん この世で別れがあるなんて!」
「ああ ああ おじいさん」
Негізгі бет 帰るところー歌、箏、尺八のためのー【春のステージ2023⑦日本歌曲協会】/初演 Modern Japanese Songs
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