□注釈と引用
*1 ジェンダー・トラブル p44
「ジェンダーとは、その全体性が永久に遅延されるような複雑さであって、ある特定の瞬間に全容が現れ出るものではない。だから開かれた連帯というのは、目のまえの目標にしたがってアイデンティティが設定されたり、放棄されたりするのを認めるものである。それは、定義によって可能性を閉じてしまうような基準的な最終目標にしたがうことなく、多様な収束や分散を容認する開かれた集合なのである。」
*2 性にまつわる常識が、私たちが全て消えてなくなった後も存在するか?と考えてみるとわかりやすいかもしれません。例えば「女らしさ」は私たちが存在しなくなれば、そこに絶対的に「ある」ものではない気がしますよね。やはり文化に創造された概念っぽい。では「生物学的女性」はどうでしょうか。私たちが消え去った後も絶対的にそこに「ある」でしょうか。こう考えると、それってかなり微妙なんですよね。
*3 LGBTQの「Q」はクィア(queer)といって、LGBTに当てはまらない性的マイノリティや、性的マイノリティを広範的に包括する概念です。元々「queer」には「変態」という意味があり、侮蔑的な意味で使われる語でしたが、これを戦略的に利用することで、現在ではそこから侮蔑的な意が失われつつあります。これもジェンダーの解釈を変える一つの例だと思います。
*4 逆に言えば「性同一性障害に権利を」と運動してしまうと、それがかえってそうでない側の人たちとの分断を産むというわけですね。
□参考文献
ジェンダー・トラブル 新装版 ―フェミニズムとアイデンティティの攪乱
amzn.to/3T8XCaw
現代思想 2019年3月臨時増刊号 総特集◎ジュディス・バトラー
amzn.to/3ZyuFHn
ジュディス・バトラー 生と哲学を賭けた闘い
amzn.to/3YBowsB
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女性参政権運動【フェミニズムとジェンダートラブル #3】
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ウーマンリブ・女性解放運動【フェミニズムとジェンダートラブル #5】
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セックス:ジェンダー二分法【フェミニズムとジェンダートラブル #9】
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動画の書き起こし版
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バトラーはセックス/ジェンダーの二分法を批判します
通常、この二分法においては
セックスを先天的、生まれつき、自然な性要素だと、
ジェンダーを後天的、学習的、文化的な性要素だとし
「人間はあらかじめセックスが備わっており
それに事後的にジェンダーが付け加わっていく」
要はセックスは変えられない、ジェンダーは変えられると考えます。
しかし、果たして本当にそうでしょうか。
バトラーはジェンダーを「文化的に作られた性」というよりは
「一種の記号・言語・解釈」だと認識しているきらいがあります *1
そしてそれらの記号は引用と反復がなされることで
あらゆる性現象を強化する性質を持つというのです。
この引用と反復というのが少しわかりづらいですね。
例えば、男や女をイメージするような定型句があります。
赤ちゃんが産まれたとき、産婦人科医や助産師さんが
「元気な男の子ですよ」というのは、まさに定型句の代表例ですね。
日常のシーンにおいて「このような場合はこう言う(する)べきである」
という雛形があり、産婦人科医や助産師さんはそれを引用しているわけです。
「元気な」という一見特別ではない言葉が
ここでは「男の子」を表す記号になっており
女の子が生まれた場合は「元気な」が「かわいい」になったりするのです。
赤ちゃんが成長すると、今度は街中で
「女の子なの?」「かわいいね」とか
「男の子なの?」「ワンパクね」とか
そのような引用と反復を浴びるようになります。
こうして、ジェンダーが持つ引用と反復の力により
性にまつわる規範が知らず知らずのうちに強化されていくのです。
このようなことを前提にバトラーは
「セックスすらも記号の引用と反復によって強化されていると解釈できるのでは」
と考えます。
ここが非常に難しい部分です。
確かに、セックスにおける男女には明確な身体的特徴の差異があります。
それが「ない」とは間違っても言えません。
しかし、よくよく考えてみると、確かにこれは少し不思議でもあるんですよね。
私たちはそれぞれの身体的特徴によって男/女を二分するわけですが、
そもそも、身体的特徴をたった二つのカテゴリーに分けることに正当性はあるのでしょうか。
分けることができないと言っているのではなく、なぜ二つなのか、です。
もちろん、そのように分けた方が「便利」だからということは考えられます。
しかし重要なのは、その二分法があたかも「絶対的な分類」として
私たちの常識に刻み込まれていることです *2
バトラーに言わせれば、このような刻み込まれたセックスの概念は、
ある記号の引用と反復によって強化された感覚なのです。
以上のことをバトラーは
「セックスはつねにすでにジェンダーである」
「セックスはあらかじめジェンダー化されている」
などのように表現します。
すごく雑に表すと、
性を表す様々な事象の集合全体をジェンダーだとすると
セックスはその中の一部でしかないのです。
つまりセックス ⊂ ジェンダー
そう考えるとセックス/ジェンダーという二分法は
いささか問題のある方法なのではないかと考えられます。
牛⊂動物という関係において牛/動物の二分法を利用している状態と一緒ですからね。
そして、フェミニズム第二波の失敗は
この二分法に対する勘違いにあるのではないかと考えるのです。
バトラーはこれをフーコーのスキーム使って説明します。
フーコーは、同性愛者と異性愛者における分断の問題には
同性愛者という概念の主張にこそ原因があると考えました。
昔、同性愛者という概念は存在しなかったと言います。
もちろん、同性愛という概念はあり、それに対する処罰もあったのですが
それはあくまでも行為に対する概念であって、
異性愛者/同性愛者という二分法で語られることは稀でした。
しかし同性愛者という概念が生まれると、
異性愛者/同性愛者の二分法が色濃く意識され
むしろそのことによって異性愛者のノーマル性が強くなり
より同性愛者への排除傾向が強化されるというのです。
バトラーはこれと全く同じ論理で
ジェンダーについて殊更に語ることは、実はセックスを強化することに繋がり、
それは男女の性役割の違いをより明確にさせることになるのではないかと考えました。
だからバトラーは、ジェンダーに対して何かしらのアプローチをして
その文化構造を変化させるのではなく、
ジェンダーにおける性に対する解釈を変えていくのが重要なのではないかと主張します。
例えば性同一性障害という言葉は、現在、性別違和として言い換えられています。
このように言語の表現が変わるだけで、
元々あった「病気」というイメージが薄くなっていることがわかりますね *3
そしてこのような解釈に対するアプローチにおいては「ノーマル」が強化されることはありません *4
セックス/ジェンダー二分法に関するバトラーの主張は
ジェンダー・トラブルの中でもとりわけ重要な箇所なので
次回の動画でもう少し詳しく見てみたいと思います。
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Негізгі бет セックスはつねにすでにジェンダーである【フェミニズムとジェンダートラブル #10】
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