源氏物語は、世界で一番古い長編小説と言われています。作者は下級貴族の女性です。
The Tale of Genji is said to be the oldest full-length novel in the world and was written over 1000 years ago. The author was a woman of lower nobility.
【主人公】光源氏(ひかる げんじ):帝と薄幸の更衣との間に生まれた皇子。絶世の美男子。
[The the protagonist] Genji; a prince born to an emperor and an unfortunate wife, the most beautiful man of all time
Playlist: • 源氏物語/The Tale of Genji
スクリプトー------------
3月、源氏はマラリアにかかって、なかなか治らなかった。病気を治すことができる聖人が北山にいると聞いて、ある日、朝早くから北山へ行った。
先に手紙を送っていたから、着くと聖人はすぐ長いお祈りを始めた。源氏は従者たちと一緒に少し山道を散歩した。
近くに有名な僧の家があった。垣根から覗くと、小さい子供たちがたくさん遊んでいた。源氏は次の発作を心配していた。
「病気のことは考えないでください。聖人が祈っているんですから、大丈夫ですよ」と惟光は言った。「ほら見てください。京の町が見えますよ。富士山はあちら、明石は反対側です。明石には播磨守が、娘と一緒に住んでいます」
「へえ、どんな娘?」
「綺麗な娘だと聞きましたよ。今までたくさんの人が結婚を申し込みましたが、播磨守がぜんぶ断ったと」
「じゃあ播磨守は、もし竜宮の王様が結婚を申し込んだら許すのかな」源氏は冗談を言った。
それから聖人の所へ戻った。聖人は「今晩またお祈りをしなければならない。ここに泊まってください」と言った。珍しい体験ができると思って、源氏は喜んだ。
夕方、また散歩した。昼に見た家へ行くと、窓が開いていた。40歳くらいの尼が中でお経を詠んでいた。顔色が悪い。また子供たちが出たり入ったりしていた。その中に10歳くらいの、とても可愛い女の子がいた。その女の子は泣いていて、顔が赤かった。
「あの子が雀を逃がしてしまったの。捕まえていたのに」
尼は疲れた顔で、女の子を見た。「私の命は今日か明日終わるかもしれないけど、あなたは私より雀のほうに興味があるのね。もう雀を捕まえないで。可哀想でしょう。さあ、こっちへ来て」
可愛い女の子は尼の近くへ行って座った。本当に可愛い。将来絶対美人になる。源氏はその女の子が気になって仕方がなかった。どうしてこんなに気になるのか。…そうだ、あの子は藤壺に似ているんだ! 帝と結婚した初恋の人、もう逢うことができない藤壺のことを思い出して、源氏は泣いた。
「ああ、私がいなくなったら、あなたはどうなるのでしょう」
尼は女の子を見て泣いていた。やがて、僧が帰ってきた。
「はやく窓を閉めてください。はしたない。山の上の聖人のところへ源氏の君が来ていると聞きました。ああもう、御一行の誰かが覗いて見たかもしれない。私はこれからお見舞いの手紙を書きます。尼、あなたも会いに行きますか。源氏の君の美しい顔を見たら病気も忘れて長生きできると、みんな言っていますよ」
侍女たちが急いで窓を全部閉めた。それで、源氏と惟光も聖人のところへ戻った。
源氏は、美しい女の子のことを忘れることができなかった。本当に藤壺にそっくりだ。尼はあの子の将来を心配していた。じゃあ私があの子を引き取って育てたらいい、と源氏は考えた。
その晩、僧が源氏のお見舞いに来て、「ぜひ私の家に泊まってください」と言った。「私は元貴族ですよ。遠慮しないで」
源氏の顔を見たら長生きできると僧が嘘を言っていたことを思い出して、源氏はちょっと躊躇ったが、あの女の子のことが知りたかったから、従者たちと一緒に僧の家へ行った。
聞くと、病気の尼は僧の妹で、女の子は尼の孫だと言う。あの可愛い女の子は藤壺の兄の娘、つまり藤壺の姪だった。
だから似ているのだと、源氏は納得した。あの子を自分で育てたい。美しく成長する姿を、ずっと近くで見ていたい。源氏は強く思った。
「最近妹は毎日あの子の心配をしています」と僧は言った。
「そうですか、お気の毒です。あのう… よかったら、私にあの女の子を託してくれませんか。私の理想の妻に育てたいんです」源氏が言うと、僧は真面目に答えた。
「あの子はまだ幼い。あの子の家族とよく話さなければなりません」
源氏は恥ずかしくなって、強く言うことができなかった。
その晩、源氏は尼に会った。
「どうか、あなたのお孫さんを私に託してください。よく教育して、将来結婚したいんです」
「なにか誤解しているのではありませんか」と尼は言った。
「私の孫はまだ子供ですよ。結婚を考える歳じゃありません」
「ええ、知っています。誤解じゃありません。本気なんです」
源氏は説得したが、尼は絶対に誤解だと言って、最後までいい返事をしなかった。
「とにかく、今は何も答えることができません。あと5年くらい待って、気持ちが変わらなかったら考えましょう」と言った。
京へ戻ると、帝がすぐ源氏を呼んだ。それで、宮中へ行って色々話した。それから左大臣が来て、源氏を屋敷へ連れて帰った。妻、葵の上は、いつもと同じだった。人形のように完璧で、人間味が無い。
「夫が病気だったのに、あなたは手紙もくれませんでしたね。心配してくれなかったんですか。悲しいです」と源氏が言うと、葵の上は源氏をチラリと見て、
「夫が逢いに来ない妻より悲しいですか」と冷たい声で言った。
「葵の上、そんなに私が嫌いなんですか。ああ、何をしたら、あなたは私を好きになってくれるんですか」
源氏は、この美しいが冷たい妻より、あの女の子と一緒にいたいと思った。
藤壺は体調が悪くなって、宮中から実家に帰った。源氏は、今なら藤壺に逢うことができると思った。毎日夕方になると藤壺の実家へ行って、侍女、命婦に手引きを頼んだ。
どうやったのか、ある晩、命婦はこっそり源氏を藤壺の部屋へ手引きした。
夢のような夜だった。藤壺はやはり、源氏の理想通りの女性だった。朝になって、源氏はもう二度とこうして藤壺を愛することができないと考えて、泣いた。こんなに苦しい別れがあると知っていたら、逢わないほうが良かったとさえ思った。
藤壺は自分が情けなかった。二度と源氏に逢ってはいけないと思った。やがて、自分の体の変化に気が付いた。だんだんお腹が大きくなった。藤壺は自分の運命が恐ろしかった。3か月も過ぎると他の侍女たちも藤壺の妊娠に気が付いた。命婦は驚いて怖くなったが、たった一晩でこうなったのは運命だと諦めた。
藤壺は帝に妊娠を知らせて、体調が悪かったから妊娠に気が付かなかった、物の怪のせいでしょう、と伝えた。
源氏も藤壺の妊娠を知った。嬉しくて手紙を書いたが、今度は命婦も受け取らなかった。
7月に、藤壺は宮中へ戻った。帝は喜んで藤壺とずっと一緒にいた。藤壺の部屋に源氏を呼んで楽器を弾かせたりした。源氏は気持ちを隠していたが、ときどき我慢できなくなって、顔色が悪くなった。それを見ると藤壺も心が痛んだ。
北山の尼は少し体調がよくなって、女の子と一緒に京の町に引っ越した。しかし源氏が会いに行ったときは、また体調が悪くなっていた。
「あの女の子のこと、決めてくれましたか。お願いです、どうか私に託してください。今日はせめて、声が聞きたい」
「尼は病気で会うことができません。姫様は、もう寝ました」
侍女がそう言ったとき、元気な足音がして声が聞こえた。
「源氏の君が来ているの? お婆様、さあ、源氏の君に会いましょう」
「だめですよ、静かにしてください」
「どうして? 源氏の君が北山に来たとき、お婆様、源氏の君の顔を見て元気になったと言っていたでしょう?」
源氏は可愛い声を聞いて嬉しくなった。しかし侍女たちが困っていたから、聞かなかったふりをして帰った。
それからしばらくして、尼は亡くなった。源氏は何度もその家に行って、女の子とも話した。源氏が行けないときは惟光が行った。ある日惟光が「もうすぐ父親が、あの女の子を迎えに来ると言っていました」と伝えた。源氏は焦った。女の子の母親は、父親の正妻にいじめられて亡くなった。父親が引き取ったら、正妻はきっとその娘もいじめる。どうしてそんな父親に彼女を託すことができるのか。
源氏は夜明け前、牛車で女の子の家へ行った。女の子の乳母、少納言が「姫様は寝ています。どうしてこんな朝早くに...」と言ったが、源氏は「じゃあ、私が起こします」と遠慮なく部屋に入った。
「さあ、姫様。お父さんのかわりに迎えに来ましたよ」
源氏は寝ている女の子を抱いて外に出た。
少納言と惟光が驚いて「何をしているんですか!」と同時に言った。
「困ります。もすうぐお父さんが迎えに来ますから――」
「少納言、あなたも私の屋敷へ来ますか。じゃ、一緒に来て、姫のお世話をしてください」
女の子が目を覚まして泣いた。少納言は困った。自分はただの乳母だ。元皇族の源氏を止めることはできない。だったら、姫様を一人にするのは可哀想だ、一緒にいてあげなければならない。そう思って、少納言は仕方なく、源氏の牛車に一緒に乗った。
源氏は女の子のために近所の子供たちを呼んで、自分も一緒に遊んだり、おもちゃを持ってきたり、できることは全部やった。
源氏の屋敷は広くて綺麗で、源氏も優しかったから、女の子はだんだん気分が良くなった。
女の子の父親は、娘がいないから驚いた。家の人たちは困って、何も言うことができなかった。乳母の少納言もいなかったから、父親は少納言が娘を連れて逃げたと思った。それで、「居場所がわかったら知らせなさい」と言って、しかたなく自分の屋敷へ帰った。
源氏の屋敷の人々は、女の子を若紫と呼んだ。若紫は源氏と仲良くなって、いろいろな話をした。大人の女性との関係は駆け引きとかマナーとかいろいろと面倒だが、若紫との関係にはそのような面倒が無い。源氏は満足だった。
ー----------------つづく
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