あさみどり
日本歌曲協会主催( www.nikakyou.org )
<邦楽器とともにーアンサンブルの多様性を求めてー 春のステージ2023>より(動画④)
2023.4.28(金)渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール
映像制作 公益財団法人日本伝統文化振興財団
詩:原かずみ
曲:高橋久美子
歌 (地歌):菊央雄司
十七絃:木田敦子
薩摩琵琶:首藤久美子
篠笛:澄川武史
【解説】
時雨降る夜の御堂で、名も知らぬ貴公子から語られた斎宮のこの世ならぬ清らかさ。
この美しい場面を持つ『更級日記』の作者は菅原孝標の女(むすめ)、あの菅原道真の血を引く名門の出です。日記は、作者が十三歳の一〇二〇年から書き起こされ、ほぼ千年前の暮らしを今に伝えるものですが、現代人と相通ずる感性に驚かされます。
その作者が熱中したのが『源氏物語』です。絢爛たる物語世界に憧れ、同じような出会いを夢見た少女は、中年になってようやく自分の愚かしさに気づき、詮無い夢に見切りをつけようとします。が、そんな折、夜の御堂で物語さながらの貴公子と出会うのでした。彼の名は源資通(すけみち)、箏の名手であり、多くの女性歌人と噂のある魅力的な人物です。
数度の淡い出会いであっても、ひとりの人生に「意味」をもたらすこともあるのですね。
本作は二〇二一年の第16回「邦楽器とともに」で初演し、好評を博したものです。今回は、前回割愛した「暁」も含め全曲演奏します。作曲の高橋久美子さんと実力ある演奏者の皆さんが紡ぎ出す千年前の胸のときめき。お愉しみください。(詩 原かずみ)
【歌詞】
あさみどり
―「更級日記」より ―
原 かずみ
あさみどりの君
時雨(しぐれ)ふる夜
御堂に満ち満ちる
僧らの声
柱の陰にふたりの女房ありて
「月もなき夜(よ)の慰みよ
春、秋、冬、それぞれに雅あれど いずれに心とどまるや」(源資通)
「われは 秋に」(女房1)
「いまひとりは?」(資通)
「あさ緑 花もひとつにかすみつつ
おぼろに見ゆる 春の夜の月」(女房2 更級日記作者)
あさみどり
はなも ひとつにかすみつつ
くちずさむほどに 時雨の上がり
千金の春の宵が
うるむように まなうらに
うたの御力(みちから)なりや
ならば 語らん
われも
あの冴え冴えとした 冬月の夜を
冴え冴えと
斎宮(さいぐう)の庭
一面につもる雪
夜のへや
そのすみずみまで
月あかり 雪あかり
御簾(みす)の向こう
五代の御代に仕えし女官の
神さびて
こまやかに言葉をかわし
時には涙で袖を濡らしつつ
語りあかしての のち
御簾のかなたから差し出されし
琵琶のゆかしき
つま弾けば
霙のようにも
光のようにも
ひとすじ 落ちていく花
いつしか わが手でありながら
わが手にあらず
この琵琶の音(ね)でありながら
この琵琶の音にあらず
夢中のうちに弾き
いずみの如く湧く調べの不思議
冴え冴えとした冬の月庭
その白さ
二十年(はたとせ)ほども経て なお
暁
宴果てての
あかつき時
遣り戸口で 声かけし女房こそ
忘れがたきあさみどりの君
「時雨の夜こそ 片時忘れず恋ひしくはべれ」(資通)
「なに さまで思い出けむ なおざりの このは(木の葉)にかけし しぐればかりを」(女房2)
戸は急ぎ閉じられて
「この胸の痛み いかにや いかに」(女房2)
わが琵琶のしらべ
いつかお聴かせ申したい
あの斎宮の一夜のごとく
時もことわりも忘れ
あさみどり 花もひとつに霞みつつ
おぼろに見ゆる 春の夜の月
Негізгі бет あさみどり【春のステージ2023④日本歌曲協会】/完成版初演 Modern Japanese Songs with Traditional Instruments
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